盛土地すべり防止工法
盛土地すべりの評価
SKF工法
SKF工法(サイドフリクション活用工法)は、一軒でもできる滑動崩落防止工法です。
概要
大地震時に造成地盛土で発生する「滑動崩落」を防止するための事業が、「宅地耐震化推進事業」です。これは、調査(大規模盛土造成地の変動予測)を国・自治体が公共事業として行い、危険と判定された「一団の盛土」に対して、「造成宅地防災区域」を指定し、対策をとるように勧告されます。対策工事は、あくまでも民間事業(大規模盛土造成地滑動崩落防止事業)ですが、公からの補助があります。
予想される課題
「一団の盛土」に対する工事に助成が行われるのですが、2分の1は自費です。融資制度も同時に作られていますので、その時に手元不如意でも工事費は負担できるようになっています。問題は、「住民合意がはたしてできるのか?」ということです。
当社は、「簡単に住民合意はできないだろう」と予想しています。1軒でも対策工事ができて、しかも効果が高く、対策をしなかった周辺の宅地に「少なくとも悪影響は及ぼさない」という工法が必要です。
滑動崩落メカニズムを逆手に取った、サイドフリクション活用工法(SFK工法)を用いれば、1軒でも対策工法を行うことができます。(ただし公の助成金の対象にはならなくなると思います)
土塊分割工法=SKF工法
物語
上記は、標準的な街区を想定して、その中の1軒のお宅(Aさん)だけが対策工を行った場合のシミュレーションです(すなわちフィクションです)。無対策だと、少なくとも1m程度の滑動変形が予想されていました。この量は、大規模な全壊となるレベルです。
Aさんは、一団の盛土の所有者とともに対策工事をしようとしましたが、他の住民は同意をしませんでした。やむなく、Aさんは自分の家だけで対策をする決断をしました。その結果、次に震度6の地震があった時、滑動変動量を1/100程度にすることに成功しました。他の住民のお宅の変動量も1/5程度になりましたが、それでもまだ変動量が大きいことや、一つの宅地の中で変動量の差が大きいことなどが原因で、全壊となりました。
もし、技術的根拠が知りたい場合には、以下を読み進んでください
東日本大震災で起きたこと
ある盛土造成地では、地すべり抑止杭が施工されていたにもかかわらず、宅地に大きな変形が発生して、家屋が全壊しました。
この滑動変形は、予想されていたことです。盛土地盤を軟らかい板で造られた橋だと想像してください。固定点は両サイドの切盛境界です。真ん中付近で一番大きな変形がでることが理解できると思います。そして、スパンが長いほどよくたわみ、スパンを短くすればたわみが小さくなることも。
モデル化
一街区は上下2列の宅地で構成されています。断面図は、地山傾斜10度、盛土厚5mくらい、でつくっています。地山との境界にとても強度の小さい層があります。
平面図は、一街区を平面的に見た図ですが、解析上は下方向に重力が作用する断面として計算します(ここが味噌です)。単位重量を地山傾斜の分力分に調整すると同時に、設計震度kh=0.25も傾斜角に換算(約14度)して使います。
すなわち、等価単位重量=単位重量×sin(10゜+atan0.25)として取り扱います。
盛土内強度は、土層強度検査棒で計測した値、φ=35、c=30kN/m2を使います。N値は2~4なので、ネットで調べて、ヤング率をE=50mPaとしました。底部の滑り面は、フリクションレスです。
仙台市のある地区の再現計算
下側盛土のさらに下側に抑止杭が施工されていましたので、それを組み込んで(断面図ではX方向、平面図ではY方向の境界条件を不動としただけですが)みました。
計算してみると、断面図の解析(側方抵抗ゼロなので、盛土中央部付近と考える)では、上側の盛土に大きな変動量が出ています。平面的には、上側宅地の中央部に大きな変動が出ています。
量的には5~6cmと小さな量ですが、一様ではなく近接する部分の変動量との差が大きいので、構造物(家屋の基礎)が壊れやすい条件となっています。
変形が著しく出てきた場所の感じが、実際に東日本大震災で被災した宅地の状況に似通っています。変動量もこんなオーダーではないかと思います。一応、合点がいきます。
ということで、キャリブレーションできたこの地盤モデルをベースとして、対策工を入れたシミュレーションをしてみましょう。
もし対策(抑止杭)が無かったら
無対策の場合には、中央部で約1mの変動量が算出されました。1978年の宮城県沖地震の時の状況に近いのかもしれません。阪神の事例でもこの程度の変動量が大半です。
ただし、側部はくっついている条件なので、阪神淡路大震災時の仁川百合野町のように土塊が完全に離れてしまうところまで行ったら話が変わります(そうならないように対策するわけです)。
当時(1978年宮城県沖地震)のこの場所の報道写真を見ると、地面が大きく口を開いていますが、盛土土塊が離れて流失するほどにはなっていないようです。約1mの変動量というのは、オーダー的にイイ線いっているように思われます。
理想的なSFK工法の場合
この一団の盛土に対して、理想的工法は敷地境界沿いに擬似側壁を造ることです。幅/深さ比が改善され変形量を小さく、しかも均一にすることができます。滑動方向に平行に対策工が配置されますので、擬似側壁は自らが滑らない機能があれば良いだけなので、地すべり対策の鋼管杭のような「ごっつい」対策である必要がありません。家が建ったままで施工できます。変動量は最大でも1cm以下になります。(無対策時の1/100)
橋の撓みを抑えるのは、単純に言えば、橋げたの剛性を上げるか、スパンを短くするかのどちらかです。盛土の剛性をあとから上げるのは難しいので、スパンを短くする、というのがSFK工法の味噌です。
Aさん宅1軒だけがSFK工法を施工する場合
住民合意が取れず、公の助成がある滑動崩落防止工事ができなくなっても、Aさんはなんとか自宅だけでも対策したいと考えました。このような場合には、宅地境界だけでなく、宅地内にも少し擬似側壁を追加施工したほうが安心です。
Aさんのお宅の絶対変形量は小さくなり、かつ変形量の差も小さいので、大きく家屋基礎が壊れることは無いでしょう。
そのほかのバリエーション
Aさん宅以外で1軒だけの滑動崩落防止対策をしようとした場合をシミュレーションしてみました。いずれも効果が大きく期待できるようです。
ぽんとは、軟らかい盛土が自由に変形することを阻止する、ということで対策は実現できそうです。
幾何学的にもっと効率的な形状もあると思います。個別宅地の空きスペースを使って効率的に配置するのが「設計」ということになるのかもしれません。
滑動崩落防止工法と待ち受け型対策の弱点
無対策の場合
- 盛土土塊全体が、斜面下方に移動するのが「滑動崩落」です。移動量が少なくても基礎を壊されますので、家屋は全壊します。
待受型対策工の場合
- 自然地盤の地すべりと異なるのは、盛土の変形が家屋を壊すことです。左写真の現場は、過去に発生した滑動崩落防止対策として抑止杭工がたくさん打設されていました。しかし、地盤は変形し、家屋は基礎ごと傾きました。
変形量の相対的比較のための解析
抑止杭工打設地区で地盤変形により家屋損壊事例より
- 無対策
- 土塊分割工法(SFK)
- 抑止杭工法(既設)
での比較
滑りだけでなく変形防止
宅地面積は200m2前後(都会では150m2くらい?)なので、15m四方程度が1軒当たりの宅地面積となる。既存宅地に対策可能な場所は、公道またはお隣さんとの境界部である。抑止杭工は、仙台市太白区緑ヶ丘3丁目で施工されていた(1978年地震時に変動したため)。しかし、今回上記解析結果の傾向と同様の変状が発生した。無対策の箇所は、太白区緑ヶ丘4丁目など多数の地区が大きな移動・変動量となった。その結果、大変動が発生し大きな被害が発生した地区がある。
※滑動崩落防止事業では、土塊が移動して他者に被害を及ぼすことを防止するのが目的なので、変形は考慮されない可能性があります。
無対策では、当然のことながら大変形が起き滑動崩落に繋がるが、抑止杭工でも杭工から離れた位置では無対策の時の2/3もの大きな変形量が発生する。すなわち「土塊全体の滑動は抑えられたが家は壊れた」ということは現実化する。側方抵抗力を有効に活用する土塊分割工法は最大変形量が抑止杭工の20%未満であることに加え、応力が分散しているので、微少な変形量も広く均等に発生するため、家屋に有害な歪を発生しにくい。抑止杭工では、杭近くで応力集中が発生するため、末端部でも圧縮隆起に伴う変形が発生し家が壊れる。
土塊分割工法=SKF工法
主応力の分布(矢印は変形ベクトル)
抑止杭工(全ての待ち受け型対策工も同様)は対策位置の上側の土塊が滑動を起こすことに対してはまったく何も対策をしていないのと同等である。このため、杭から離れたところの変形は無対策時とそれほど大きな違いは無い。抑止杭直近では応力集中が発生して土塊の滑動を食い止める。土塊全体の滑動は止まるが、変形は無対策並みに発生するわけである。これはアンカー工なども含め、待ち受け型対策工の宿命である。土塊の剛性が高い場合には、土塊内の絶対変形量が小さいので自然地盤(人工地盤の盛土よりも剛性が大きい)の地すべりなどでは大きな問題にはならない。
土塊分割工法=SKF工法
土塊分割工法
土塊分割工法は、滑動崩落時に土塊の滑動を抑える作用をする側方抵抗を有効に利用する工法です。変形量を小さく、かつ分散することが可能で、地震時に致命的な運動をする盛土造成地から家屋・宅地を守ります。また、抑止杭工など大規模な対策工事は、道路など宅地以外の場所で行うことしかできませんが、土塊分割工法は宅地境界部を利用して既存家屋が存在する宅地でも施工可能です。
土塊分割工法=SKF工法
土塊分割工法(=SFK工法)の適用範囲
詳細は3次元安定解析を行って対策工を設計する必要がありますが、概略的には以下のようになります。
- 幅/深さ比>10の盛土の滑動崩壊発生率は非常に高い
- 幅/深さ比<5ではほとんど滑動崩落は発生していない
- 設計上は、幅深さ比≦3となるように配置する すなわち、幅15mの敷地であれば、深さ5mの盛土に対策可能である。深さ3mであれば、幅/深さ比=5となるので、念のために宅地の一部(庭)に補助的な分割(中途半端でもよい)を行う。
- 深さ2mよりも浅いような薄い盛土に関しては、側方抵抗力を期待する工法よりも、たくさん地山まで貫入させた「押しピン」をしておくことで対策できる。
土塊分割工法=SKF工法
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土塊分割工法は太田ジオ単独の特許工法ですが、まだ実用化に至っておりません。実現可能な工法組み合わせとして下記のようなものを考えています。技術協力・業務協力してくださる企業を募集しております。
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土塊分割工法=SKF工法
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