太田ジオメールマガジン[219]~予測はできないが予防はできる、の巻~

表層崩壊は予防してナンボです。土検棒から生まれた方法論です。

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━ Vol.219 ━ 2016.11.29━

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┃★表層崩壊の予防の設計方法
┃  土槽強度検査棒で土層厚の分布と、土層強度を実測し、単位体積重量も
┃  実測して、未知数を減らしていくと、表層崩壊の原因が静水圧ではなく
┃  過剰間隙水圧だということがわかり、誰でも設計できる方法論になりました
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■表層崩壊の予防の設計方法
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表層崩壊の多くは豪雨時に起きます。降っている最中に起きるということです。
「逃げなきゃ!」と思ったときには、すでに遅く、逃げられなくなっていること
が大半です。このことは、逃げることを主軸としたソフト対策は、いざという時
に機能しない可能性があることを示しています。

家を襲い、命や財産を奪うがけ崩れの大半は「表層崩壊(Shallow Landslide)」
です。表層崩壊を退治し、家を一番安全な場所にしてしまうことができれば、大
雨のたびに怯える必要はなくなります。

土検棒で表層崩壊調査をして分かった重要なことは、地下水圧には2種類あると
いうことでした。ひとつは静水圧で、いわゆる安定解析で「地下水位を代用する」
とやる水圧です。

もう一つは、土中に毛細血管のように発達するソイルパイプを通るパイプ流内に
発生する水圧です。ソイルパイプは透水性が非常に高いので、普段は自然の地下
水排除工として斜面安定に寄与しています。ところが、記録的大雨が降るとソイ
ルパイプが飽和し、その中の水圧は山の上からかかってきます。山が高いと凄ま
じい過剰間隙水圧が作用し、斜面を破壊するのです。

土中水圧の説明図
http://livedoor.blogimg.jp/ohta_geo/imgs/c/d/cd15b9b5.jpg

過剰間隙水圧はパイプ内の 水圧なので、水圧ゼロ地点があります。パイプ内の
水位高がそれなのですが、地中は覗けないので、地表にその場所を持ちめる必要
があります。パイプ内水位がそれ以上高くならない場所か、水圧が地表に抜ける
場所が、過剰間隙水圧ゼロ地点です。

地形的な尾根や、湧水点や小崩壊跡(これも一種の湧水点)がそれに当たります。
予防工は、人工的に過剰間隙水圧ゼロリセット地点を作れば良いことになります。
実に簡単です。(小崩壊跡や湧水店の存在は、実は安全の証でした)

なおソイルパイプの周囲は不透水ではないので、過剰間隙水圧は水圧降下します。
過剰間隙水圧比をα、水圧ゼロ地点からの比高をh、水の単位重量をγwとすると、
過剰間隙水圧は、α×γw×hとなります。過剰間隙水圧比αは、崩壊した箇所を
調査して逆算によって求められます。今までのケースではα=0.3前後となるこ
とが多いようです。

実際に静水圧と過剰間隙水圧の状態がどのようになっているのかを知るのは難し
いのですが、設計上は静水圧P1を地表面までの静水圧とし、過剰間隙水圧P2をど
ういうピッチで制御すればよいかを試行計算すればよいことになります。簡単に
言えば、どう転んでも安全率Fsが1.0を下回らないように過剰間隙水圧ゼロリセッ
ト地点を配置すればよいだけです。論理的でしかも簡単な計算でできます(この
方法論に対応したソフトウエアはありませんが、テクニックを使えば計算できる
ソフトはあります)

対策工のイメージ図
http://livedoor.blogimg.jp/ohta_geo/imgs/4/5/45b63074.jpg

2003年の九州豪雨災害時に、巨大岩塊が吹き飛ばされた現象を、今の理屈で再現
すると、過剰間隙水圧比α=0.4程度で発生するようです(その頃はそういう知
恵がなかったので、岩塊の大きさを正確に計測していませんでした)。

岩塊が吹き飛ばされた時の再現
http://livedoor.blogimg.jp/ohta_geo/imgs/f/f/ffc0ad3b.jpg

このように予防は簡単にできることがわかりました。しかし、いつどこが崩れる
かというのは、いつどこに「その地域最大級の雨」が降るのかという問題と同義
になるので、わかりません。予測はできないけど予防はできる、という話になる
わけです。
(編集後記)
当社は排水補強パイプを取り扱っていますので、それを使った崩壊予防工と、そ
の合理的調査設計法を作ろうとしてきました。国鉄で昭和40年頃から東海道新幹
線を中心として、盛土部にはほとんど打設され、しかも打設箇所でほとんど崩壊
実績がない秘密は、過剰間隙水圧の消散効果にあったのだろうと考えています。
ところが、この理屈だと、どのようなパイプを用いても同様の効果が得られてし
まいます。社会貢献としては良いのですが、ビジネスとしてはアウトです。そう
いう事情で、過剰間隙水圧をリセットする方法論は特許申請しています。パイプ
メーカーには、知財権の制約を受けてもらわないとこちらが干上がってしまうか
らです。現在、この方法論を使うことが許可されているのは排水補強パイプのみ
です(まだ公募していないので当たり前ですが)。他のパイプも排除しませんが
契約が必要です。設計方法については、特に制約はつけないつもりですが、この
解析ができるソフトと使い方を指導しないと悪貨が良貨を駆逐することになりか
ねません。協会員限定にして囲い込もうと考えています。(H.O)