既存擁壁補強は、明確な方法論が無く、困った分野でした。ひとつの解決方法を提案します。

1.外観調査
 擁壁の構造(練石積み・空石積)、変状(ハラミ出し、その他)、湧水状況などを外観調査により明らかにする。
 
2.土層区分調査
 SS試験あるいは簡易貫入試験で基礎地盤まで探査し、土層区分を行う。地下水位も把握する。
 
3.土層強度調査
 上記試験で形成された「穴」を利用して土層強度検査棒でc・φ計測を行う。表面が軟らかく浅い試験深度の場合には、プレ削孔なしに土層強度検査棒のみで試験を行う。
 
4.地盤モデル作成
 土層区分とそれに対応した強度区分を行う。また、最も安定条件が不利になる場合の地下水位を、踏査結果や地盤調査データなどから類推する。
【ポイント】斜面の安定を計算によって確かめる場合、内部摩擦角φと粘着力cの両方を得ることが大切です。しかし、標準貫入試験(N値)や簡易貫入試験等のサウンディングからは、砂質土か粘性土に区分し、前者であればc=0としたうえでφを評価し、後者であればφ=0とした上でcを評価するという方法しかありませんでした。それ以外は現地から不撹乱試料を採取し室内で三軸圧縮試験等を行わなければなりません。土層強度検査棒は、現地でのc・φ同時取得を可能にしました。三軸圧縮試験ほどに精度はありませんので、数多く計測し統計的処理でその弱点を補います。
1.地下水排除効果の評価
 「排水アンカー工」を工法として採用する場合、効果は(1)地下水を地中から排除する効果、(2)被圧的地下水の水圧を除去(消散)する効果、および(3)補強効果(せん断補強、引張補強、擬似擁壁効果)、の3つがあります。このうち(1)および(2)については、経験的であれ浸透流解析であれ、適切に評価する必要があります。
 
2.抑止力の算定と対策工の構造検討
 安定計算により、対策工をシミュレーションします。排水アンカー工の、高耐食性鋼管と土の摩擦力は、τ=14N-31(kN/u);NはN値、で算出できます。τ≦0となる場合には(N値が2以下)の場合には、地下水排除効果のみしか期待できません。

参考資料
豪雨と地震に対して効果を発揮した斜面安定化対策工の2つの事例
【ポイント】宅地等でよくつかわれるブロック積み擁壁や、道路等で使われるコンクリートもたれ擁壁は、底盤が狭く高さが大きい薄っぺらい「もたれ式構造」となっています。構造計算上、山側からの土圧がなければ安定しないというもので、実際の現場状況が計算と合致しているのか不確実です。排水アンカー工は、その薄っぺらい構造物を「受圧板化」し、底盤幅の厚い擬似擁壁を構成します。このような自立可能・回転不能の安定した構造により、豪雨時・地震時に、きわめて滑動・転倒しにくいものに仕上がります。
1.施工スペース
 排水アンカー工に用いる排水補強パイプは1.8mが定尺です。このため、3.6m打設の場合には2本、5.4m打設の場合には3本用います。横方向に打設する場合、ブレーカーが約1mのスペースをとりますので、3m程度のスペースが必要です。場合によっては、排水補強パイプを90cm(特注品)とすることもあります。
 
2.打設能力
 排水補強パイプ打設は、プレ削孔せず打ち込んでいく工法なので、摩擦力が強く作用します。N値5程度の土に対しては、3.6m打設くらいが目安になります。長尺を入れたい場合には、φ50〜60mmでプレ削孔してから打設します。プレ削孔の場合、最長11m程度の打設実勢があります(高速道路盛土)。
【ポイント】排水アンカー工の排水補強パイプ打設は、ブレーカーなど小さな機械で行えますので、狭い場所でも施工可能です。ただしこのメリットは、硬質地盤やれき質地盤の場合には、打設不能となるデメリットになる場合もあります。プレ削孔等が必要になるかどうかは、事前に検討しておく必要があります。
1.化粧
 排水アンカー工では受圧板を用います。道路沿いの擁壁などでは、メッキした金属板を受圧板として使います。民間家屋など機能だけではなく美観も重視する場合には、化粧受圧板を用います。

 左写真は道路に設けたもので円形金属受圧板のみが用いられていますが、美観重視の場合には左上のような石模様の化粧受圧板も開発されています。

2.リフォーム
 擁壁補強は防災目的で行うものですが、民間個人や、民間ビジネスの場合には、それだけでは不十分です。全体のリフォームの一環として行うのが良いと思います。その場合には美観を向上させることによって資産価値を高めるということも重要です。
【ポイント】表面が健全な場合には丸型受圧板のみでOKです。やや老朽化しているような場合であれば、もう少し受圧面積が大きいものを利用したらよいです。さらにズレやハラミが認められる場合には、梁をつくる場合もあります。
既存不適格擁壁、特に空石積擁壁の補強は積み石が結合されておらず個別に抜け落ちる恐れがありますので、メッキされた鋼製網などで覆い、その上から排水アンカー工を施工する必要があります。(左写真には排水アンカー工は施工されていません)
 
仮に対策していない既存不適格擁壁が崩れ、隣家等に被害を発生させた場合、民法第717条工作物責任により、過失が無くても占有者が賠償責任を負います。占有者が必要な注意義務を果たしていたことを立証できれば、占有者の責任は免責され、所有者が無過失責任を負うことになります。
 
なお、工作物が公の造営物の場合には国家賠償法によって同様の賠償責任が生じます。
当社(太田ジオ)は、特許権者(地盤リスク研究所)から権利の行使を許可されていますので、ご検討の際にはご連絡ください。高度経済成長期にたくさん創られた住宅や社会インフラ(道路擁壁など)が、今後老朽化(土圧による押出し、コンクリートの劣化)し、維持修繕・補強のニーズが高まってきます。その際の一つの選択肢になると思います。
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