アニメーションGIF画像の説明 2008/11/24
【仁川百合野町崩壊】

1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震で西宮市仁川百合野町の盛土斜面が大きく崩壊し、崩壊土砂は家屋を巻き込んで流下しました。この崩壊により34名の方が亡くなられました。

この写真の撮影日は、地震の翌日の2008/1/18です。正面でバックホーが動いているあたりに多くの方が埋まっています。写真撮影時点ではまだ全員土の中です。
【仁川百合野町盛土崩壊】

滑落崖の上に建つ構造物は、阪神水道局の施設です。高台だったので、ここが谷埋め盛土だったことはすぐにはわかりませんでした。しかし構造物の基礎が杭基礎となっていましたので冷静に考えればわかったと思います。

その後の研究で、この谷埋め盛土は地震時に底面部に液状化を発生させ、抵抗力を失って盛土全体が崩落したことがわかりました。
【長岡市高町の宅地崩壊】

2004年10月23日、新潟県中越地震が発生しました。新興住宅地の谷埋め盛土が選択的に崩壊し、マスコミ報道が集中したことから「宅地耐震化促進事業」のきっかけとなりました。

盛土斜面は従来、盛土の法面部を勾配管理して崩壊防止をしていましたが、緩い谷に盛った盛土全体が滑動崩落することは想定されていませんでした。地震に発生する過剰間隙水圧を甘く見ていたのです。
【刈羽村の事前対策】

2007年7月16日に新潟県中越沖地震が発生しました。刈羽村では、2004年の中越地震時にも被害を受けていたのですが、そのうちの1軒の方が、暗きょ工を主体とする地下水排除工を自費で施工し自宅を再建していました。この地域は中越沖地震で再び大きな被害に見舞われましたが、結果的に、そのお宅だけが選択的に被害を免れることができました。

大きな被害が出た、柏崎市山本団地地区は、宅地耐震化事業の第一号工事が実施されましたが、事後対策なので例外的な適用です。
【盛土の安定問題の過ち】
 盛土は通常緩い勾配の谷などを埋め立てるために行われます。盛土の設計上の管理は、通常盛土法面勾配の方が地山との境界の勾配よりも急になりますので、標準盛土勾配である一定の勾配よりも緩くするという手法を用いていました(上の左図)。盛土と地山との境界部にすべりが発生する(上の右図)ことなど夢にも思っていなかったということです。
 盛土と地山の境界部は地盤の透水性の境界部にも当たりますので、通常地山の上面(盛土の最下部)を地下水が流れ、細粒分などを流していくため緩んでいきます(専門用語で”膿んでくる”と呼びます)。簡易貫入試験などをしてみると、古い盛土ではその境界部はほとんど強度が無く自沈するレベルです。それでも、勾配が緩いのでそこにすべり面が形成されるとはほとんどの人が思っていませんでした。
 ところが地震時には、とんでもないことが起きていました。強震動を受けると緩んだ土が重力によって締まろうとしますが、水が非圧縮性の液体であるため締まることができません。この地下水がどこかに逃げてくれたら良いのですが急激な変化の場合、その周辺の地盤は普段は透水層としての挙動をしていても、急激な変化の場合には不透水層として挙動します。このため、ここにある地下水の水圧は最悪の場合上に乗っている土の荷重をもろに受けてしまいます。これが過剰間隙水圧と呼ばれるもので、過剰間隙水圧と上に乗っている土の荷重が等しくなると、上の土が水の上に浮かんでいる状態になります。こうなると摩擦抵抗力は全く効きませんので、少しの勾配があれば滑り出します。盛土の滑動崩落現象とはこのことなのです。地山勾配が緩くても容易に変動するのはこのためです。むしろ地山勾配が緩い方が常時水をもちやすいのでこの現象が起きやすいとも言えます。
 盛土が船になったようなものですから、船が動き出さないようにするには力ずくで止めるか、水(または水圧)を抜いてやるかしか方法がありません。力ずくで止めるのには大変な労力がかかるので、賢い方法は水または水圧を抜くということになります。
 2006年に改正された宅地造成等規制法で宅地耐震化促進事業として考えている対策は、後者の方法が主体です。これは、宅地のみならずあらゆる谷埋め系の盛土にも同じことがいえます。
 土木事業において、盛土工は非常に安価で便利なものですが、地震時の過剰間隙水圧を甘く見ていたツケがいまきています。その無知の責任は土木技術者や研究者にありますが、自然現象はまだまだ知られていないことが多いのです。知っていることはごく僅かと言った方が良いかも知れません。

【家屋の耐震化】

2007年3月25日に能登半島地震が発生しました。輪島市門前町道下地区では数多くの戸建て住宅が倒壊しましたが、耐震強度の強い家屋は倒壊を免れています。

倒壊した家屋は、再建費用が別途必要になりますが、倒壊した家屋のローンはそのまま残ります。仮にローンが残っていたとすれば、結果的に当初家屋は資産ではなく負債だったことになります。

 阪神淡路大震災以降、神戸で震災にあった方々は資産に対する見方が変わったと言われます(『大震災の経済学』p.86)。それは資産家と言われ不動産を所有していた人達が、不動産を盛っているがゆえに惨めな目に遭っているのを見たからです。「土地は減るわけではないが、建築物などは大地震の前には資産のようで資産ではない。別の見方をすれば、一億円の家は建ったときから一億円の資産が別にないと建て替えることができない」ということです。
 阪神淡路大震災において、被災後通常の生活に復帰できた人とできなかった人との違いが研究され、「資産5000万円の壁」が明らかになりました。個人資産を5000万円以上もっていた人は早期復帰でき、それ以下だった人はなかなか復帰できなかったということです。5000万円の自宅をもっていたひとが、自宅が壊れたときに別の5000万円を自己資産から用立てて自宅が再建できたかどうかということがこの違いを生んでいます。用立てることができなかった人達は二重ローンに陥ったわけです。
 現実に資産5000万円以上所有している人はあまり多くありません。しかしマイホームを盛っている人はたくさんいます。ここで肝に銘じて欲しいことがあります。「地震で壊れる資産は負債である」ということです。

【コンクリート塀倒壊の責任】

どこにでもあるコンクリートブロック塀ですが、地震の時にはよく倒れます。これが倒れたことにより誰かが怪我をした場合、賠償責任はこの塀の占有者もしくは所有者にあります(民法717条)。過失が無くても賠償責任は生じます。

これはコンクリートブロック塀に限らず、宅地でも崖でも擁壁でも同様です。

被害に遭いそうな人は、所有者に対して安全にするように要求することができます。ただし、所有者が拒んだ場合には、鑑定人が危険性を評価することになる場合があります。
 刑法では悪意や過失がないと罰せられません。しかし、コンクリートブロック塀が倒れてきたり崖が崩れたりして怪我をしたり、最悪の場合命を落とした場合、「知らなかった」ということで責任を免れるとなると、被害にあった人は立つ瀬がありません。このため、民法では被害者の救済のため過失が無くても損害賠償に応じる責任が占有者や所有者にはあります。
 また、危なげな擁壁や崖地でも、それを造ったときの基準でOKだった場合には、いまの基準でアウトであっても「既存不適格」構造物として存在が許されています。このため家屋の建て替えによって家屋そのものは耐震性が高まっていっても、擁壁は古くて弱いままに残されているところが多々あります。
 その「怖い擁壁」の下に住む人は、事故が起きてから損害賠償してもらっても遅いので改善要求をすることができます。ただし、その要求を占有者や所有者が受け入れる義務があるわけではないので、往々にして裁判沙汰になります。裁判で「明らかに現状は危険である」となれば占有者や所有者が安全対策をしなければならなくなります。「怖い擁壁」に怯えて暮らすくらいなら、専門家に鑑定してもらうのが一番良い方法です。

【道路崩壊】

中越地震で山古志村の道路が崩壊しました。写真は東竹沢の大地すべりで河道閉塞し、家屋が水没しはじめた地区の方々が、一時的に家に向かわれているところを撮影したものです。

山岳地の道路にとって、斜面上からの崩壊や落石は、落ちてきたモノを除去すれば通れるようになりますが、道路が斜面下方に落ちてしまうと長期間復旧できない事態に陥ります。復旧にかかる時間が一番の問題です。
【道路盛土の崩壊】

能登有料道路は、盛土区間が選択的に崩壊しました。近くの家屋に見かけ上ほとんど被害がないのに高速道路は大崩壊していました。

これも谷埋め盛土の滑動崩落の一種です。盛土底面付近の地下水流動により緩んだ盛土と地下水が強震動により液状化を発生し、抵抗力を失って崩落したのです。

いざというときの緊急輸送道路が使えないということは重大な問題です。盛土内の地下水の影響が盛土全体を崩壊に至らしめるということがわかってきたので、改訂される「道路土工」では排水対策が拡充されると聞いています。
【斜面上方からの落石】

能登半島地震で発生した被害です。大岩塊が斜面上方から落ちてきています。しかし、道路は存在しているので、除去すれば短期間で通行可能になります。

復旧時間で物事を評価すると、上から落ちてくるのは早期復旧可能で、下に落ち去っていくのは復旧期間が長期にわたり深刻です。
 道路は大雨の度に法面や擁壁が壊れて、そのたびに補修されます。「壊れたら直せばよい」という種類の構造物と考えられています。頻繁に壊れることによって、災害時に頼りになる地場の土建屋さんの仕事を生んでいるという側面もあります。
 しかし、大地震などの大災害時に救援に向かったり物資を運んだりするための「緊急輸送道路」ではそれは許されません。高速道路はもちろん緊急輸送道路ですし、山間地ではあまり丈夫そうでない道路が緊急輸送道路に指定されていたりします。これらは計画的に改良されてきていますが、なかなか万全な状態にもっていくには時間と費用がかかりますので、優先順位を決めなくてはいけません。
 なにをもって優先順位とするかというと、復旧にかかる時間の長いものから先に手当てしていくというのが合理的です。山の上から道路に落ちてきたモノは、道路の下などに排除すれば短期間で復旧しますが、道路が谷の下に落ちてしまうと復旧には長期間を要し、緊急輸送道路の役割を果たさなくなります。「復旧に長期間かかるので落ちて困るモノ」の代表格が「橋」です。いま緊急輸送道路の耐震化・落橋防止工事が進められています。次に困るモノは、道路盛土です。沢埋め盛土などには地下水がありますので地震時に液状化を起こして、道路盛土が谷底まで落ちてしまいます。法肩部などが崩れるくらいはどうってことありませんが、過剰間隙水圧が発生しないようにして盛土全体の崩落を防がなければなりません。能登有料道路は良い教訓になるでしょう。

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